名古屋地方裁判所 昭和39年(ワ)717号 判決 1965年10月30日
主文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
原告等は、原告等に対し、被告加藤茂枝は別紙第二目録(二)記載の各建物を収去して別紙第一目録記載の各土地を明渡し、且つ昭和三十七年十二月一日から同年十二月三十一日まで一ケ月金四万八千九百九十円、昭和三十八年一月一日から同年十二月三十一日まで一ケ月金五万三千三百六十円、昭和三十九年一月一日から同年一月三十一日まで一ケ月金五万三千五百九十円、昭和三十九年二月一日から同年三月三十一日まで一ケ月金八万二百三十五円、昭和三十九年四月一日から右土地明渡ずみに至るまで、一ケ月金九万三千七百七円に各割合による金員を支払い、被告丸八合板株式会社は別紙第二目録(二)記載の各建物から退去して右各土地を明渡さなければならない。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、(一)別紙第一目録(一)、(二)、(三)記載の各土地は、もと原告等の先代奥田きくの所有であつたが、同人は被告加藤茂枝に対し昭和七年十二月一日右(一)の土地を賃料は月、坪金十七銭五厘で、昭和九年二月一日右(二)の土地を賃料は月、坪金十六銭で、昭和十二年十一月一日右(三)の土地を賃料は月、坪金十七銭八厘で、いずれも木造建物所有の目的で右(一)、(三)については期間の定めなく、右(二)については期間を三年と定めて賃貸した。奥田きくは昭和三十四年五月二十三日死亡し、原告等は相続により、右各土地の所有権と右賃貸借における賃貸人の地位を承継した。なお右賃料は、その後増額され、昭和三十三年にはいずれも月坪金十七円であつた。(二)被告加藤は右各宅地上にベニヤ工場を建築所有していたが、同工場は昭和二十六年二月火災により全焼滅失したため同人はここに別紙第二目録(二)記載の建物を再建所有し、昭和三十三年頃これを被告丸八合板株式会社に賃貸し、爾来被告会社が右各土地を占有している。(三)右奥田きくは昭和三十三年夏頃、地価の高騰、物価の上昇等により前記月、坪当り金十七円の賃料は著しく低廉である事情にあつたので被告加藤に対し口頭で右賃料を昭和三十四年一月分から坪当り金三十円とする旨の意思表示を為し、そして公課の増徴及び異常な経済事情の変化等から不動産鑑定理論に基づいて算定すればなお増額の必要があつたので昭和三十四年二月六日付書面で同被告に対し昭和三十四年一月から月、坪当り金百十九円に賃料を値上げする旨の意思表示を為し、右書面はその頃同被告に到達した。更に右計算によれば、なお増額の必要があつたので、原告等は昭和三十六年七月一日付書面で同被告に対し右の賃料を昭和三十六年四月分から月、坪当り金二百十円に増額する旨の意思表示を為し、右書面はその頃同被告に到達したが同被告はいずれも右の増額請求に応じなかつたので奥田きくは昭和三十四年度分以降の賃料の受領を拒否した。而して原告等は同被告に対し昭和三十六年十二月十一日付書面で昭和三十四年一月一日以降の賃料を月、坪当り金百十九円となして同年十二月三十一日までに、更に昭和三十七年八月一日付書面で右の賃料を昭和三十四年度分は月、坪金五十円、昭和三十五年度分は月、坪金六十円、昭和三十六年度分は月、坪金六十円、昭和三十七年度分は、月、坪金七十円に譲歩してこれを同年八月三十一日までに支払うよう各催告をし、その書面はいずれもその頃同被告に到達したが、依然賃料の支払はなされなかつた。(四)原告等は同被告に対し右(一)の土地の賃貸期間は昭和三十七年十一月三十日満了したので昭和三十七年十二月四日付書面で、右(二)の土地の賃貸借期間は昭和三十九年一月三十一日満了するので昭和三十九年一月十五日付書面で契約更新拒否を予告した上昭和三十九年二月一日付書面でそれぞれ右各賃貸借契約の更新を拒否し、自ら右各土地を使用する要あるにより右各地上の建物を収去して同土地を明渡すよう通知し、右各通知はいずれもその頃同被告に到達した。前記のごとく同被告は昭和二十六年二月右借地上に所有していたベニヤ工場を火災により全焼し、奥田きくは同被告が同地上に賃借期限を越えて存続する建物を再建せんとするのを知り昭和二十六年二月二十五日付書面で右再建築に異議を述べ、その再建を差止める旨の意思表示を為し、右書面はその頃同被告に到達したのであるから、たとえ同被告が右差止めを無視して別紙第二目録(二)の各建物を再建しても借地法第七条の法定更新権を有しなく且つ原告等は右のごとく再建に異議を述べており、右(一)、(二)の各土地については前記のごとく昭和三十七年十一月三十日、昭和三十九年一月三十一日にそれぞれ契約期間満了し且つ同被告には右に述べたとおり賃料不払による信頼関係の破壊及び信義則違反の事実があるから、原告等は同被告の右各賃貸借期間の更新請求に対してこれを拒絶する正当事由がある。従つて同被告の右(一)、(二)の土地に対する借地権はそれぞれ右各期間満了の日に消滅した。又右(三)の土地については原告等は昭和三十九年三月二十七日付の書面で同被告に対し右の賃料不払を理由に同月三十一日限り前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示を為し右書面はその頃同被告に到達した。よつて、被告加藤の右(一)、(二)、(三)の各土地に対する借地権はすべて消滅した。よつて原告等は被告加藤茂枝に対しその所有する別紙第二目録記載の建物(二)の収去、別紙第一目録(一)、(二)、(三)の各土地の明渡及び右(一)、(二)、(三)各土地の借地権の期間満了日の翌日から賃料を合算した金額、即ち昭和三十七年十二月一日から同年十二月三十日までは月金四万八千九百九十円、昭和三十八年一月一日から同年十二月三十一日までは月金五万三千三百六十円、昭和三十九年一月一日から同年一月三十一日までは月金五万三千五百九十円、昭和三十九年二月一日から同年三月三十一日までは月金八万二百三十五円、昭和三十九年四月一日から右土地明渡ずみに至るまでは月金九万三千七百七円の割合による賃料相当の損害金の支払を求め、被告丸八合板株式会社に対し別紙第二目録(二)の建物よりの退去と右各土地を明渡を求める。と述べ、被告の答弁ないし抗弁事実を争い、供託のあつたことは認めるが、原告等が適正相当賃料として意思表示した額に比較して甚だしく僅少額であり、昭和三十八年分の賃料から追加して供託しているが、それは原告等の履行催告後の期限を過ぎたこと及び、それでもなお原告等が相当額とする賃料との差異は大きい。この点から被告加藤の責に帰すべき事由に基づく債務不履行である。と述べた。
被告等は主文と同旨の判決を求め、答弁ないし抗弁として、
請求の原因たる事実中(一)、(二)、(三)の各点を認め、ただ約定賃料は月坪金十七円であつたのを原告等は、金三十円に値上げすると云つたり、金百十九円に値上げすると云つたり、更には金二百十円に値上げすると云つたりでとりとめがなく、もともと、賃料は貸主において任意に増額し得るものではない、ただ、適正相当額であれば増額の表意ができるに過ぎない。被告加藤としては従前の賃料を固守するものではないが、原告等の増額請求は相当額の賃料ではないので支払に応じられない。同被告は奥田きくが賃料の受領を拒絶したので昭和三十四年分以降昭和三十九年分までの賃料として昭和三十四年分月坪金十七円を昭和三十四年二月五日に、昭和三十五年分月坪金十七円を昭和三十五年一月二十五日に、昭和三十六年分月坪金十七円を昭和三十六年一月十一日に、昭和三十七年分月坪金十七円を昭和三十七年二月一日に、昭和三十八年分月坪金四十円を昭和三十八年一月二十一日に、昭和三十九年分月坪金六十円を昭和三十九年一月二十三日に、昭和三十七年九月から同年十二月までの追加分月坪金四十三円を昭和三十九年二月五日に、昭和三十八年分追加分月坪金二十円を昭和三十九年二月五日にそれぞれ名古屋法務局に供託したから同被告に債務不履行はない。仮りに右の主張が理由がなくても同被告は昭和三十八年分から一ケ月坪当り金四十円供託したのは、原告が本件土地の隣地を訴外共栄産業株式会社に坪金四十円で賃貸していることが判明したからであり、又昭和三十七年九月から一ケ月坪当り金六十円供託したのは、昭和三十九年二月頃本件土地の隣地の賃料につき昭和簡易裁判所(昭和三七年(ユ)第六七号)において月、坪昭和三十七年十一月以降金六十円とする調停が成立した事例を聞知したからである。このように同被告は、賃借人として賃料支払について誠意を示しているのであるから同被告に賃料の不払はない。前同(四)の点については同被告所有の建物が昭和二十六年二月頃火災により滅失したこと、その後前記(二)の建物を本件土地上に再建したことは認めるが、それは借地法にいう建物朽廃に当らないからこれにより同被告の借地権は消滅していない。又原告等は右の(一)、(二)の各土地につき、それぞれ期間満了により借地権は消滅したと主張するが、その後に、原告等から賃料増額の交渉を受けたのであるから、原告等は契約更新拒絶の意思を放棄したものである、更に更新拒絶の意思表示があつたとしても、原告等には正当事由はない。賃料相当額は否認する。と述べた。
証拠(省略)
別紙
第一目録
(一) 名古屋市中川区前並町五〇番
宅地 二三〇坪
(二) 名古屋市中川区前並町五一番
宅地 一一四坪三合六勺
(三) 名古屋市中川区笈瀬町二丁目一番
宅地 五七坪八合二勺
第二目録
(一) (登記簿上)名古屋市中川区前並町五〇番地、五一番地、五二番地
家屋番号同町第四八番ノ二
木造瓦葺平家建工場 建坪一五〇坪
木造瓦葺平家建工場 建坪一五〇坪
木造瓦葺二階建工場 建坪一階七四坪五合
二階七四坪五合
木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建汽罐室 建坪一七坪五合
木造瓦葺平家建休憩室 建坪六坪
木造瓦葺平家建変電室 建坪三坪
(二) 右建物のうち、
右前並町五〇番宅地上の木造瓦葺平家建工場の部分右付卸を含め二一二坪二合九勺
右前並町五一番宅地上木造瓦葺平家建工場の部分右付卸を含め一一四坪三合六勺
右笈瀬町二丁目一番宅地上の木造瓦葺平家建工場、木造瓦葺二階建工場の各部分右付卸を含め五七坪八合二勺